紅楼夢の殺人・芦辺 拓
原作『紅楼夢の殺人』は、本格ミステリ・マスターズシリーズとして文芸春秋から出版。18世紀の中国の文豪・曹雪芹の『紅楼夢』をベースとしている。芦辺氏は、中国古典文学を用い、持ち前の文才で清朝末期の北京を舞台に怪奇な殺人事件を繰り広げる。中国、日本、英語圏へと場所が変わるたび、どのような趣向、工夫がほどこされるのか。今回の英訳は、文化的相違の観点からも興味深い一冊である。
ストーリーは、繁栄を極めていた賈一族の娘で、皇帝の貴妃となった元春が里帰りするところから始まる。元春を出迎えるため、賈一族は屋敷の裏庭に〝大観園〟と呼ばれる庭園を造営した。貴妃の宿下がりにふさわしく、庭には広大な池を作り、別院を建てる。愛する家族を思い、宴が終わると元春は同じく美少女と誉れ高い妹や従妹に、この庭に移り住むように命令する。まだ少年でありながら、気品あふれる彼女の弟・宝玉もこの大観園に住むことになる。彼らは、この先の惨劇をまだ知らなかった。
夜の宴の最中、衆人環視もと、庭の池越しに迎春(元春の従妹)が無残にも殺される。これが謎めいた連続殺人事件の発端だった。地方知事の任期を終え、都の司法省の役人として帰郷し、探偵でもある頼尚栄が現場にやってくる。事件を調査し、楽園を暗黒の地へと変貌させた犯人を探して。
一方で、宝玉には独自の考えがあった。大観園での唯一の男の住人として、いずれ一族の当主となる身として、姉たちを守らねばならない。独自の調査を開始した宝玉の動きに、従来のやりかたで犯人追跡をしていた頼尚栄は翻弄される。そんなとき、宝玉は頼尚栄の助手となる。頼尚栄は単独行動を好んだが、今回は内部情報が入ってくることを期待する。
だが、最初の殺人犯の手掛かりもつかめないうちに、鼻先をかすめるように次々と死体が転がる。宝玉が裏で犯人たちと繋がっているのではないかと、疑い始める頼尚栄。宝玉と協力しなければならない立場にあると同時に、困難な選択をせまられる。高貴な助手を告発するか、迫りくる危険に自分が飲み込まれる前に事件を解決するか。
悲劇の結末は、モラルに関する重い問題を投げかけるとともに、長年のミステリー小説ファンも頷ける新しく斬新な探偵小説を見せてくれる。
書籍データ:
- xiii + 253ページ
- 新書判 152mm x 229mm (6 x 9)
- ISBN-13: 978-4-902075-38-0
- 黒田藩プレスID: FG-JP0032-L39
- 価格: ¥1600 / US$16.00
- 表紙: 服部 幸平
- アマゾン
- Amazon
- Book Depository (送料無料)
- Bookstores and university buyers (contact us directly)